金沢競馬電流事件
あまりにも劇画チックな八百長未遂事件が発覚したのは、昭和55年11月24日、石川県の金沢競馬場であった。
その日の最終レースは、10頭だてで行われた。各場一斉にスタートしたのはよいのだが、1枠から4枠までの馬の運びが変なのだ。それに気付いていたのは出走委員の1人。結構まじめに仕事をしているようだが、もしかして八百長をやっているんじゃないかと、レース後に騎手をつかまえて事情聴取に及んだ。すると騎手たちは良い競馬場なのに一瞬、ケツまずいたようになったと異口同音に訴えたのである。
馬場に何か細工がされているのかもしれないと、名探偵の出走委員さんは、所轄の警察と一緒になって証拠探しに加わった。
そして1枠から4枠までの地下10センチのところに、長さ7メートルの電線が発馬ゲート付近から1直線に埋められているのを発見したのである。さらにゲートから約100メートル離れたところにある電灯線と埋没電線とを結ぶコードも発見された。しかもそれにはスイッチボタンが付いており、ボタンを押している間だけ電流が流れる仕組みになっていたのだ。
もちろん名探偵はスイッチを入れてみた。するとどうだ。地中の電線に約50ボルトの電流が流れたのである。たかが50ボルトというながれ。人間にはたいしたことがないかもしれないが、馬には蹄鉄という伝導体を足の裏に打ち付けているのだ。これがビリビリビリッとくる。デリケートなサラブレッドの走りに影響しないわけはないではないか。
犯人はだれだ。馬場内に入ってもだれからも不審に思われず、しかも電気関係に詳しい人物であるところまでは追い詰めたのだが、結局は迷宮入りになってしまったという。
ところで、意外なところで捜査線上にこの電線作戦を使って大もうけした人物が1人浮かび上がった。劇画界の大御所、小池一夫氏が描く「I飢男」である。この劇画の主人公は、その手口でまんまと大金をせしめてアメリカ行きの資金としたのだが、当の作者によれば、地中で計算どおりに電流がながれるか。また電線の上をうまく馬が走ってくれるか。しかも足は1本ではなく2本でなくては意味がないということで、いたずらではないかとのこと。
やっぱり劇画とはいえ漫画は漫画、現実はそうは問屋が卸さないといったところか。
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