世紀の替え玉出走事件
競馬の歴史の中で、替え玉事件はいくつも存在する。特にイギリスのダービー史をひもとくと、大穴馬券を造り出すための大胆不敵な替え玉事件を発見することができる。
まず紹介したいのはコートオブメイルという馬。
騎手であるジャック・リーチの父は調教師で、コートオブメイルを預っていた。しかしこのコートオブメイルがいわゆる駄馬だったので、馬主と相談した結果、他の調教師に安く売ってしまった。
ところが、それから1ヶ月後、コートオブメイルがストックトンの3歳レースで4馬身もの差をつけて勝ったというニュースが伝えられた。驚いたリーチはさっそくコートオブメイルに騎乗した騎手に会いに行ったが、騎手は素晴らしい馬だったというだけだった。
しかし、コートオブメイルが他の馬とすりかえられていたことはすぐに発覚した。関係者は全員逮捕されたが、騎手だけはすりかえられた馬をコートオブメイルだと信じて騎乗していただけだということが証明されたので無実となった。
ところでこのコートオブメイルとすりかえられた馬だが、5歳馬のジャズというスプリンターである。本物のコートオブメイルは鹿毛で、ほっそりとした体格の馬だ。一方のジャズは黒鹿毛で、丸々と太った頑丈そうな馬。どう考えても、似ていない。よくも替え玉にしようなどと考えたものだ。主犯のバーリイいわく、そっくりに見せかけるためにジャズの色を塗り替えた、のだそうだが、厚化粧のおばさんが女子高生にみえた試しはない。
次に紹介したい馬が、ランニングレイン。さる賭博師に仔馬の時に買われたランニングレインは、ずっと厩舎のなかにかくまわれ、人目につかないようにされていた。そして1843年、ランニングレインが3歳のとき、この賭博師は所有していたマカビアスという5歳馬を、ランニングレインの名前で新しい馬主に譲渡している。
つまり、2歳年齢をサバ読んだわけだ。賭博師としては、マカビアスに似た若い馬の戸籍がほしくてランニングレインを購入していただけなのである。しかし、この時すでにランニングレインは3歳馬にしか見えないと指摘する新聞記者もいたという。
この年の3歳馬のレースに出場したランニングレイン(マカビアスのこと)は、年下の馬を相手に楽勝して、賭博師はまんまと大博打に勝っている。大袈裟な例えになるが、プロ野球のチームとリトルリーグが試合をしても勝負にならないようなものだ。最初からわかっていた結果なのである。
しかし、これでは勝負に負けた馬の関係者が納得いかない。その後のしつような追求のほとんどが空振りに終わるが、ランニングレインがダービーに出走したとき、レース後について失格になっている。
ちなみにこのダービーには、実は他にも年齢を偽って出走していた馬がいた。
レイアーンダという馬で、レース中にランニングレインにぶつかって骨折し、その日のうちに安楽死の処置がとられた。あとで獣医が顎を検査したところ古馬であることが判明した。とんだところでボロが出たわけだ。それも、ぶつかった相手がよりによってあのランニングレイン。
さらに、レイアーンダの馬の所有者の告白は、さらに周囲を仰天させた。
レイアーンダは、7歳馬なんだ!
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