シバカオル妊娠事件
いかに深窓の令嬢といえども未婚の母になってしまうことがよくあるが、厳しい閨閥が支配するサラブレッドの世界では、まずそんなことはない・・・・・・ハズなのだが、あったのだコレガ。
いみじくも未婚の母となったのは、レッキとした中央競馬会の登録馬で、大久保良厩舎に所属していたシバカオル号、牝4歳。父タケシバオー、母ミスオールトンというから名だたる血統である。
「お前の馬、ちょっとおかしいぞ。もしかして妊娠しているんじゃないか」
「まさか。でも、たしかに成長期とはいえベスト446キロの馬が498キロまで増えるというのはおかしいよね。おれだってちゃんと調教してるんだから」
というようなやり取りがあったようで、シバカオル号の世話をしていた原田厩務員が競走馬診療所に連れて行ってみると、なんと心音が2つ聞こえたのだ。
「妊娠9ヶ月目ですね」
と妊娠が発覚したのである。しかしすでに妊娠9ヶ月とは。発覚したのが1月24日。デビューしたのは前年の7月14日。ということは、新馬戦のときはすでに懐妊していた計算だ。よくもまあ、流産しなかったもんである。
それはまあいいとして、問題は相手はだれで、いったい何時そんなフラチなことをしでかしたのかということである。
まず、逆算すると時期は出る。彼女が大久保厩舎に入ったのは、その年の5月21日。それまでは黒磯にあるなべかけ牧場にいた。となると、コトがあったのは厩舎か牧場のいずれかということになる。
「ウチの厩舎は牝馬ばかりだったので、妊娠するわけない」
とは先の原田厩務員。
一方なべかけ牧場の牧場長も、
「牝馬と牡馬を別々の柵に入れて管理してるウチでそんなことがあったとは考えられない」
という。
とすれば、これはナザレの馬小屋の中でキリストを生んだマリア様のように処女懐妊だったのか。すると生まれてくる仔馬は・・・。
ナゾはナゾを呼び、話題になったが、血統がモノを言う競馬界において未婚の母は許されない。あわれ母は即刻引退、繁殖馬に。そして生まれてくる子は私生児として、世間から隠されたのである。
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